この本には、4つの物語が書かれています。
簡単にお話の内容を。
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*フキノトウになった女の子
ーオイナカムイの妹が語った物語*
語り:砂沢クラ さん
※オイナカムイ・・・人間に生活の仕事を教えてくれたカムイ(アイヌラックル、オキクルミなどの別名とも)
《お話》
針仕事が好きなオイナカムイの妹は、
人間たちが住むアイヌモシリの美しさに惹かれて、
地上へと出かけていきました。
その美しい景色を前に、彼女は嬉しくなって踊り出します。
すると風が巻き起こり、アイヌモシリのコタンはめちゃくちゃになってしまいました。
それを知った兄のオイナカムイはひどく怒り、
彼女は地獄の底へと落とされます。
あまりの辛さに泣き続けていると、
彼女はようやく地上に出ることが出来ました。
しかし、彼女の姿はフキノトウになっていたのです。
「アイヌの神であるカムイたちよ、
アイヌモシリを荒らさないで下さい。
大地と海を荒らした罪のせいで、
私はこんな姿になってさみしく暮らしているのですから」
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*舟になった木のカムイ
ーシリコロカムイが語った物語*
語り:四宅ヤエ さん
※シリコロカムイ・・・大きな木のこと。大地の生き物たちを見守るカムイ。
《お話》
大地の生き物たちを見守って暮らしていたシリコロカムイ。
ある冬の日、若いオキキリマは
猟がうまくいくようにとイナウを捧げて祈りました。
シリコロカムイは猟がうまくいくように見守ってあげます。
たくさんの獲物を手に猟から戻ったオキキリマたちはお礼のお祈りをしました。
しかし、彼らはまずい脂身と筋ばかりの硬い肉を捧げたのです。
そして「交易に行くためにあなたの切り倒して舟を作ります」とお祈りして帰っていきます。
形だけは祈りの作法にかなっていますが、シリコロカムイは腹が立ちました。
そこで、オキキリマたちが自分を切りに来たときは、
体(幹)を硬くして切らせませんでした。
次に来たのは、若いサマイエクルでした。
彼らも猟の成功を祈り、たくさんの獲物を手に戻ってきました。
そして、とろりとおいしい脂身とやわらかい肉を捧げてくれました。
交易のために舟を作るというので、
シリコロカムイはやわらかい体(幹)になり、
簡単に切り倒せるようにしました。
サマイエクルはその舟で和人が住むマトマイ(松前)へと向かい、
交易は無事におえました。
その時も、立派なイナウといい香りのお酒を捧げてくれました。
それから毎年交易はうまくいき、そのたびに丁寧にお礼をしてくれました。
舟が古くなって引退した後も、新しい舟と共に祈りを捧げてくれました。
「わたしは本当にしあわせな舟です。
大切にしてくれたサマイエクルたちを、
わたしはいつまでの見守っていったのです」
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*魔物にさらわれた女の子
−コタンコロカムイの妹が語った物語*
語り:平賀エテノア さん
※コタンコロカムイ・・・シマフクロウのこと。人間の村を見守るカムイ。
コタンコロカムイの妹が家でひとり刺しゅうをしていると、
小さくて小僧に連れ去られてしまいました。
連れ去られた先には巨大な魔物がいました。
毎日が辛くさみしく、魔物の洞窟で泣きながら暮らしていると、
とうとう助けがやってきました。
それは靄(もや)のかたまりでした。
魔物を地獄の底へと落とし、
コタンコロカムイの妹を救い出すと靄の中から声が聞こえ、
「おまえがさらわれて兄の悲しみはたいへんなものだった。
家に戻って兄に知らせてやるがいい」と話し、
靄は天へとのぼっていきました。
その靄はアイヌラックルでした。
戻ってきた妹に兄は大変喜びました。
そして、妹を助けてくれた
アイヌラックルとカムイたちを招いて宴を開きました。
宴を終えた後、兄はアイヌラックルに妹を嫁にもらってほしいとお願いします。
アイヌラックルは快く承諾しました。
こうして、コタンコロカムイの妹は、毎日とても楽しく暮らしました。
「アイヌラックルさまは、本当に素晴らしい方です。
わたしは一日一日深く満ち足り、幸せに暮らしているのです」
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*村を守った夢のお告げ
ーおとうさんがはなしてくれた昔話*
語り:藤山ハル さん
昔々、オヤンルルというコタンに
ヤイレスーポという男が住んでいました。
その男には、チリキアンクフというおじいさんの姿の守り神がいました。
ある日、チリキアンクフは夢を見ました。
「いずれ遠いコタンから化け物の船がやってくる。気をつけるのだぞ」
その声はチリキアンクフをさらに見守る守り神でした。
しばらくして、夢のお告げの通り、
水平線の彼方から化け物の船がやってくるのが見えました。
チリキアンクフは自分が守っているヤイレスーポに
夢の中でその危険を知らせました。
そして、化け物からコタンを守るための方法を伝えます。
ヤイレースポはチリキアンクフに言われたとおりにしました。
すると、化け物は尻尾をまいて逃げ帰っていきました。
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こんな感じでしょうか。
だいぶ要約して書いているのですが、
もっと簡単にわかりやすくまとめたいなぁ。
文章を上手にまとめる能力がほしいです。
このお話では、オキキリマ、サマイエクルという呼び名ですが、
オキキリマはオキクルミのことで、
サマイエクルはサマユンクルのことです。
以前、このブログ(01/22付記事)では、サマイュンクルと表記しましたが。
やはり地域によって呼び名が様々なんですね。
『舟になった木のカムイ』では、
オキキリマ(オキクルミ)とサマイエクル(サマユンクル)が出てきますが、
以前、『火の雨 氷の雨 カムイユカラ・アイヌの神さまが話したこと 』
というアイヌの絵本を紹介した記事の中で、
「北海道の南西部(西側)あたりでは
オキクルミが善き者でサマイュンクルが愚か者」
「北海道の東北部(東側)あたりでは
サマイュンクルが善き者でオキクルミが愚か者」
としていて、その地域によって信仰対象が違っており、
南西と東北ではまったく逆に言い伝えられている。
と二人の役回りの違いを話したのですが、
『舟になった木のカムイ』の物語を読んで、
改めて地域によって違っていることを知ることが出来ました!
『火の雨 氷の雨 カムイユカラ・アイヌの神さまが話したこと 』
オキクルミは村人たちから人望がある、善き者。
サマイュンクルは村人たちから人望がない、愚か者。
『舟になった木のカムイ』
オキキリマ(オキクルミ)は悪い振る舞いした、愚か者。
サマイエクル(サマイュンクル)はよい振る舞いをした、善き者。
といった感じで、役回りがまったく真逆。
『舟になった木のカムイ』という物語は、
北海道 白糠(しらぬか)で言い伝えられてきたもののようです。
ということは、東方面の地域のお話のようですので、
サマイュンクルが善き者でオキクルミが愚か者となっているみたいですね。
地域によって、まるっきり逆の立場になっていることが今回よく分かりました。
ん〜、面白いです
それから、ヤイレースポとは
サハリンのアイヌの物語に出てくる
主人公の名前だそうです。
北海道のアイヌ物語ではアイヌラックルやオキキリマ(オキクルミ)
サマイエクル(サマユンクル)と呼ばれていますが、
サハリンではヤイレースポと呼ばれているそうです。
オキキリマ(オキクルミ)とサマイエクル(サマユンクル)の役回りの違い、
ヤイレースの呼び名のことなど、
これらは本書の解説にもちょこっと書かれています。
最後に、
今回紹介した本は
『公益財団法人 アイヌ文化振興・研究推進機構(アイヌ文化財団)』
のホームページ内にあるキッズメニューの「じどうしょ」で
すべての物語を読むことが出来ます。
以前にも一度書いたのですが、
そのキッズメニューでは「えほん」もあり、
アイヌの伝統などを題材とした小さな子ども向けの絵本も
たくさん読むことが出来ます。
興味がある方はぜひのぞいてみて下さいまし
ネットでいつでも読めるのはいいですね。
でも、本好きの私としては書籍本として一般販売して欲しいなぁ。
この手に持っておきたい!
イヤイライケレ!