この本には、3つの物語が書かれています。
簡単にお話の内容を。
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*カムイを射止めた男の子
まだら鳥のカムイが語った物語*
語り:二谷国松 さん
《お話》
まだら鳥のカムイが空を飛んでいると、
いじめをしている子どもたちを見つけました。
いじめていた子のひとりであるお金持ちの村長の子が
こちらに向かって何度も矢を放ってきましたが、
すべての矢をひらりとかわしました。
その後、ひとりその場に残された
いじめられっ子の男の子が、こちらに向かって矢をつがえてきました。
男の子はまだら鳥のカムイを喜ばせようと、
涙のたまった目でとびっきりの笑顔を見せてくれました。
その様子に、まだら鳥のカムイは喜んで男の子の矢を受けました。
男の子はまだら鳥のカムイを大事に家まで運ぶと
一番位の高い席におき、立派なイナウを作って
削り花できれいに包んでくれました。
そして、毎日丁寧にお祈りをしてくれました。
男の子はおばあさんと二人で暮らしていて、
とても貧乏な生活をしていました。
まだら鳥のカムイは、はたと気づきました。
その子のお父さん、お母さんのことをよく知っていたのです。
とても心のよい人で、まだら鳥のカムイは大切に見守っていたのですが、
ふと目を離したすきに、ひどい事故にあって
二人とも亡くなってしまったのです。
まだら鳥のカムイは、この子どもを大切に見守ってやることにしました。
それからというもの、男の子は狩りに出かけるとたくさんの獲物が取れました。
やがて、立派な家も建て、まだら鳥のカムイを大切にまつりました。
男の子はみんなから尊敬される人になり、
まだら鳥のカムイは家の守り神としてずっと家族を見守りました。
「ですから、わたしもますます格の高い
カムイになることができたのです」
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*月に閉じ込められたなまけ者*
語り:杉村キナラプク さん
《お話》
母親はとんでもないなまけ者の息子に困り果てていました。
水汲みを頼んでも返事一つせず寝そべっているばかり。
ようやく起き上がったと思ったら、炉ぶちにマキリを突き刺し、
「ひがな一日、ぬくぬくと火に当たってればいいからうらやましいもんだ」
次に家の柱にマキリを突き刺し、
「突っ立てるだけでいいんだから、いい気なもんだ」
と吐き捨て、息子は水を汲みに外へ行きました。
ところがいくら待っても息子は戻ってきません。
川をのぼるウグイたちや、サクラマスの大将、イトウたちに
息子のことをたずねても、
これまでその息子にひどい言葉を浴びせられ、
ひどいことをされた彼らは口をそろえて
「息子の行方は知っているけれど、教えてやるもんか」
と答えてくれません。
母親は、サケの大将にたずねました。
サケの大将は、毎年『すばらしい魚!』と褒めてくれて、
大切に扱ってくれるあなたたちのためだからと
息子の行方を教えてくれました。
しかし、サケの話はこうでした。
息子はあまりにひどいなまけ者。
マキリで突き刺された炉ぶちのカムイが他のカムイたちにそれを言いつけ、
『働くのが嫌いなら、望み通り、何もしないでいいようにしてやろう』
と戒めとして月の中に閉じ込めてしまったのです。
母親が月を見上げると、その中に息子が立っていました。
息子は自分の素行を悔やみ、泣きながら母親にお願いしました。
これから生まれてくる子どもたちに、
「なまけちゃいけないよ、ものぐさをしてはいけないよ」と
教えてやって欲しいと。
そうして、息子を月に閉じ込めらてしまった母親は涙ながらに語りました。
「なんと悲しく、さみしいことでしょう。
ですから、子どもたち、けっしてものぐさをしてはいけませんよ」
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*小鍋の教えでしあわせになった娘さん*
語り:黒川トヨ さん
《お話》
クンネナイという土地で両親と一緒に暮らしていた娘がいました。
娘の両親はたいへん不器用な人で、生活は貧乏でした。
娘が山へたきぎを取りに行くと、美しい若者に出会いました。
川を下った所にあるコタンの村長の息子さんでした。
みずぼらしい自分の姿に恥ずかしくて、
娘は逃げるように帰ってしまいました。
それからというもの、よくその人に出会うようになりました。
その度に娘は隠れたり、逃げ帰ったりしました。
そんなある日、エゾシカの腿(もも)が窓から投げ入れられました。
外を見ると誰もいませんでしたが、
娘はすぐにあの息子さんだと思い、胸がときめきました。
そのお肉はとてもおいしく、
ますます張り切って働くようになりました。
そうして、とんでもない知らせが届きました。
村長の息子さんが、病気で亡くなってしまったというのです。
娘はすぐにお悔やみに行きたいと思い、
貧乏ながらも、倉から一束の粟(あわ)を持って彼の家に向かいました。
娘のひどい格好に周りの者たちからはなじられたが、
弔いの人たちであふれかえっている彼の家の中になんとか入って、
隅っこで小さくなって座りました。
そこは鍋置き場でした。
きれいに磨かれいる鍋の中に、欠けた小さな鍋がありました。
と、その鍋が娘に話しかけました。
「この家の人はいつもきれいにしているが、
庭の西の方にあるゴミをほったらかしている。
そのゴミの下に悪いカムイが入り込んで、
この家の息子に一目ぼれして、魂を奪り、砂の中に隠してしまった。
あのゴミを片付けるように言って、
砂の中から出てきた魂を息子の体に戻してやってほしい」
娘は驚いてその庭に向かうと、
小鍋が言ったとおり、確かにそこにはゴミがありました。
家の人に伝えようと娘は勇気をふりしぼって、
みんなが集まる炉端に近づきます。
周りのなじる声を耳にしながら、息子の遺体のそばまで行くと
自分のものとは思えない声が口から飛び出しました。
「家の西、ゴミの山、悪いカムイが住み着いた。
女のカムイに奪われた。息子の魂、埋められた」
それを聞いた人々は急いでゴミの山を片付け、
その中に息子の魂を見つけました。
娘はそれを受け取ると、息子の胸にこすりつけました。
すると、息子は息を吹き返したのです。
まだ口もきけないまま。横たわる彼を、娘は必死になってお世話をしました。
そして、彼が元気を取り戻したのを見届けると、
娘はそっと家を去りました。
その後も娘は両親にその出来事を黙ったまま、
いつものように暮らしていました。
それから季節がひとつ過ぎた頃、
村長の夫婦が感謝の気持ちとして宝物を持ってやってきました。
そして、娘さんを息子のお嫁さんにきてほしいと言うのです。
娘は村長の家にお嫁に行くことになりました。
それからというもの、娘は辛いことはひとつもありませんでした。
夫のお父さん、お母さんにもよくしもらい、
貧乏だからと周りの人たちも悪口を言いません。
夫も娘を大切にし、優しくしてくれました。
こうして満ち足りて暮らしています。
「だから、子どもたちよ、孫たちよ。
欠けた小鍋だからと、粗末にしてはいけません。
わたしは、あれからもずっとあの小鍋を大事にしてきたんですよ。
夫の命を救い、素敵な夫に嫁がせてくれた小鍋ですからね」
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今回紹介した本も前回と同じく
『公益財団法人 アイヌ文化振興・研究推進機構(アイヌ文化財団)』
のホームページ内にあるキッズメニューの
「じどうしょ」で読むことが出来ます。
本の内容だけで終わってしまいましたが、
今回はこれにて
イヤイライケレ!